国際税務の基礎(その2)
1.源泉徴収
国際税務における源泉徴収は納税方法の一種として重要な役割を果たしている。
(1)源泉徴収の対象
外国法人、非居住者が国内源泉所得を獲得した場合、納税義務が生じる。
納税方法として源泉徴収制度を採用。
内国法人、居住者は確定申告義務が課される。
源泉徴収制度が採用される理由・・・確実な税金徴収手段
源泉徴収のスキーム
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↓(納付)
税務当局=国
(B国のE社とは接点無し)
(2)源泉徴収すべき所得の種類と税率
①租税条約締結国
租税条約により、対象となる所得・税率が決められている。
(多くの場合、対処となる所得源泉地の税法に合わせ、一方の国で源泉徴収の対象としない所得など特定の要件を租税条約に定めている)。
(締結国間で該当する所得に対する税率が異なる場合の扱いは租税条約による)。
②租税条約締結国以外
所得を獲得した国の税法に従って源泉徴収される。
留意点としては、海外取引を行う際に、源泉徴収の対象となる所得、税率を確認することが重要。
(3)源泉徴収をめぐる事例
①債権債務を相殺した場合の源泉徴収
(例)
外国法人の日本子会社が500の利子を海外親会社に支払う。
源泉税20%=100、支払額:400
海外親会社は日本子会社が持つノウハウのロイヤリティ1,000を支払う。
債権債務を相殺した金額を支払う契約になっている。
相殺後の支払額=1,000-400=600を支払う(源泉徴収後の金額で相殺する)。
(誤って500支払うと、支払利子500をグロスアップした源泉税を徴収される)。
(500÷(1-0.2)=支払利子625となり、源泉徴収額125となる)。
(この間違いが結構あるそうです)。
②債務主義と源泉徴収
装置の賃借料等の源泉徴収で
使用地主義・・・資産等の使用地で源泉徴収する(日本)。
債務主義・・・使用料の支払地で源泉徴収する(中国など)租税条約でアジアは多い。
使用料課税無し・・・アメリカ、イギリス
(使用地と支払地が異なる場合(海外に統括子会社がありその子会社が使用料を支払う場合など)要注意)。
③海外子会社との契約上の留意事項
業務提携契約などで、賃借料、指導料など様々な負担関係を定める場合、負担毎に料率を定めることが必要(源泉税負担を軽減することに繋がる場合がある)。
(例)
一括して経営指導料を定めたが、装置の賃貸料が含まれていた。賃貸料は10%の源泉徴収を要する場合、指導料全体に10%で課税される可能性がある。
④源泉徴収税率の違い
(例)
日本は利子の源泉税は20%であるが、多くの国で利子源泉税は10%となっている。
主要各国との租税条約で限度税率を定めているので、注意が必要。
租税条約で限度税率を定めている所得、利子、配当、使用料など。
配当の源泉税は、議決権比率により限界税率が異なる場合が多い。
(議決権比率25%以上、50%超など支配従属関係がある場合は源泉税が軽減されている)。
(4)海外勤務者の税務
①課税関係(誰が、どこで、どのような所得があるか?)
居住地国はどこか?
所得源泉地国はどこか?
居住地国=所得源泉地国・・・居住地国で課税
居住地国≠所得源泉地国・・・租税条約によって判断
(多くの場合183日ルールがあり、183日以上勤務滞在し、滞在国での源泉所得がある場合、課税関係が発生する)。
②勤務地等の問題
海外勤務の期間、場所については、出向契約書や辞令などで明確にする(居住地の推定)。
客観的に判断できる別の証拠がある場合、客観的事実に基づく(国内に居住していた事実を明らかにするものなど)(客観的事実)。
③所得源泉地国
所得源泉地国=勤務地
(給与負担が国内で行われても勤務地が海外の場合所得源泉地国は海外)
(複数の地域で勤務している場合、勤務日数に応じて源泉地国は振り分ける)
役員の例外
内国法人(日本)の役員の場合は、勤務地が海外で行われた場合でも、国内で勤務したものとして扱われる(所得源泉地国=日本)。
(注)役員が1年以上海外勤務となる場合、非居住者となり20%の源泉徴収を行う。
ただし、取締役A国工場長のように、常時A国で勤務している場合は、従業員とみなされ、勤務地=所得源泉地国となる。
国際税務の基礎(その3)に続く