「中小企業の会計に関する指針」の適用に関するチェックリスト(その3)
チェックリストの各項目の意義、(その3)として、負債・損益について、各チェック項目の意義、確認事項の背景にある会社法の計算規則などを示してみたいと思います(下表)。
今回のコラムでは、退職給付債務や税効果会計等の会社計算規則に直接規定されていない会計処理等が「中小企業の会計に関する指針」で規定されているのは何故か?という点について考えたいと思います。
会社法は会社法431条において、「株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従う」としています。この”一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行”が、企業会計原則・企業会計基準・公認会計士協会の実務指針等です。会社計算規則に直接規定されていない会計処理等は”一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従う”ことになります。
チェックリストで考えると、このコラムの第4回で出てくる、外貨建取引等も会社計算規則においては直接規定がありません。
実務上、退職給付債務や税効果会計は中小企業で適用されているのでしょうか?答えは、適用している会社は少ないです。
すると、「中小企業の会計に関する指針」を適用している会社で、退職給付債務や税効果会計の適用がなく、会計処理に問題が無いか?と考える経営者の方も多いと思います。でも、心配はありません。「中小企業の会計に関する指針」は“中小企業が、計算書類の作成に当たり、拠ることが望ましい会計処理や注記等を示すものである”からです。
逆に本当にそれで会計上問題ないか?という点も考えたいと思います。一例として、退職給付債務・退職給与引当金の問題を考えます。中小企業といえども、従業員に退職金を支払うところは多いでしょう。この従業員の退職金に備えて、引当計上するのが退職給付引当金です。退職金を支給すると、赤字になってしまうというケースはままあります。引当金を計上しておけば、将来の費用を過去に計上してあるため、引当金の取り崩しのみで、費用は発生しません(加算分等は除きます)。ここに退職給付債務・退職給付引当金を計上しておく意味があります。ただし、過去の引当計上の際には毎期、税務上加算しなければなりません。税務は引当計上を認めていません(退職給付費用の損金算入を認めていません)。ここは辛いところです。ただし、退職金の支給時に過去の加算分は引当金の取り崩しによって、税務上認容されます。このことから、退職金の支給による経営成績の変動は回避できます。
このように、「中小企業の会計に関する指針」を適用することで、将来を見据えて会計を考えると、会社の財務内容の健全性が保てますね。中小企業の会計に関する指針を会社の財務内容の健全性、という観点から、ご活用いただければと思います。
勘定科目 |
№ |
確認事項 |
||
金銭債務 |
32 |
金銭債務は網羅的に計上され、債務額が付されているか。 |
||
確認事項の意義 |
会社計算規則第6条 |
|||
33 |
借入金その他営業上の債務以外の債務でその支払期限が1年以内に到来し ないものがある場合、それが固定負債の部に表示されているか。 |
|||
確認事項の意義 |
会社計算規則第75条の2項1号ル及び2項2号リ |
|||
34 |
関係会社に対する金銭債務がある場合、項目ごとの区分表示又は注記がなされているか。 |
|||
確認事項の意義 |
会社計算規則第103条1項6号 |
|||
35 |
デリバティブ取引による正味の債権債務で時価評価すべきものがある場合、 それが時価で評価されているか。 |
|||
確認事項の意義 |
会社計算規則第6条2項3号 |
|||
引当金 |
36 |
将来発生する可能性の高い特定の費用又は損失で、発生原因が当期以前に あり、かつ、設定金額を合理的に見積ることができるものがある場合は、それが引当金として計上されているか。 |
||
確認事項の意義 |
会社計算規則第6条2項1号 |
|||
37 |
役員賞与が支給された場合、発生した事業年度の費用として処理されているか。 |
|||
確認事項の意義 |
役員賞与に関する会計基準 |
|||
退職給付債務・ |
38 |
確定給付型退職給付制度(退職一時金制度、厚生年金基金、適格退職年金 及び確定給付企業年金)が採用されている場合は、退職給付引当金が計上 されているか。 |
||
39 |
中小企業退職金共済制度、特定退職金共済制度及び確定拠出型年金制度 が採用されている場合は、毎期の掛金が費用処理されているか。 |
|||
40 |
新たな会計処理の採用に伴う影響額が定額法により費用処理されている場合は、未償却の金額が注記されているか。 |
|||
確認事項の意義 |
退職給付債務・退職給付引当金に関しては、会社計算規則第6条2項1号イ、退職給付に関する会計基準・同適用指針 |
|||
税金費用・ |
41 |
法人税、住民税及び事業税は、発生基準により損益計算書に計上され、決算日後に納付すべき税金債務は、流動負債に計上されているか。 |
||
42 |
税額控除の適用を受ける受取配当・受取利息に関する源泉所得税がある場合、法人税、住民税及び事業税に含められているか。 |
|||
43 |
決算日における未払消費税等(未収消費税等)がある場合、未払金(未収入金)又は未払消費税等(未収消費税等)として表示されているか。 |
|||
確認事項の意義 |
会社計算規則93条、諸税金に関する会計処理及び表示に係る監査上の取扱い |
|||
税効果会計 |
44 |
一時差異の金額に重要性がある繰延税金資産又は繰延税金負債がある場合、それが計上され、その主な内訳等が注記されているか。 |
||
45 |
繰延税金資産が計上されている場合、厳格かつ慎重に回収可能性が検討さ れたか。 |
|||
確認事項の意義 |
税効果会計に係る会計基準・実務指針、開示に関して会社計算規則83条 |
|||
純資産 |
46 |
純資産の部は株主資本と株主資本以外に区分され、株主資本は、資本金、 資本剰余金、利益剰余金に区分され、また、株主資本以外の各項目は、評 価・換算差額等及び新株予約権に区分されているか。 |
||
確認事項の意義 |
会社計算規則76条 |
|||
収益・費用の |
47 |
収益及び費用については、一会計期間に属するすべての収益とこれに対応 するすべての費用が計上されているか。 |
||
確認事項の意義 |
企業会計原則第2損益計算書原則一A |
|||
48 |
原則として、収益については実現主義により、費用については発生主義により認識されているか。 |
|||
確認事項の意義 |
企業会計原則第2損益計算書原則一A、三B、注解六 |
|||
リース取引 |
49 |
所有権移転外ファイナンス・リース取引の借手となり賃貸借取引による処理が 行われた場合、未経過リース料が注記されているか。 |
||
確認事項の意義 |
会社計算規則第108条、リース取引に関する会計基準・同適用指針 |