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「日本経済を壊す会計の呪縛 (新潮新書) 」を読む。

 

本書を読む前、期待したのは会計基準のあるべき姿だった。企業会計原則が有名無実化している中で、あるべき会計基準の方向性を現行の会計基準を批判的に検討することで示して欲しいと思った。

著者は、会計ビッグバンといわれる会計基準の制度化がデフレ不況をもたらしたという。確かに会計基準の制度化が経営に与えた影響は大きいと思う。しかし、著者が主張するような、会計基準の制度化が、直接的にリストラの加速、短期思考の経営に結びついたとは考えにくい。短期思考の経営やリストラはもっと根深い経営思想や経済思想の変革にあると思う。中長期的な思考で経営を行い、会社や従業員を育てるという考え方は小生も賛成である。

著者が提案する会計基準の見直案も疑問だ。というよりも一部の見直し方針は、問題の本質を外れていると思う。何が問題かというと、有価証券の時価評価の中で、持ち合い株式の保有目的を見直し原価評価に戻すという考え方だ。そもそも、この有価証券の時価評価は、含み損益を持った株式を時価評価して健全なBSの開示を行おうという趣旨で導入された。会計基準導入前を振り返ると、企業は有価証券の含み益を実現し損失を埋め、その後買い戻す処理を行ってきた。有価証券の時価評価は、含み益があるならばいくらあるのか、売却して利益を実現した結果、含み益がいくら減少したのか、それを開示しようとしたものだ。また、会計基準導入前の監査も経験したものとして言わせて頂くと、健全な会社は含み益を滅多に実現させていない。大規模な投資を行うための旧設備の廃棄などの損失処理に利用していた会社はあるが、それも新しい投資のためである。当時でさえ、配当原資として益出しすることは会計処理として問題視されていた(全くなかったとは言わないが)。

有価証券の時価評価でBSの実態が明らかになりリストラを進めたのは、益出しと買い戻しを繰り返し含み損を多く抱えた企業だった。このような基準導入時の状況を顧みるとき、持ち合い株式の原価評価は納得できない。

著者は減損会計などの見積がもたらす弊害にも言及している。確かに、将来の見積の正確性や厳格度がいかがなものかと思うところもあるが、経営者は、工場の採算性や将来の製品構成などを考え、工場の再編などは常に心がけているはずだ。その考えを上手く減損会計の見積に利用すれば、減損会計も有用な会計基準となると思う。

本書は良くデータも調べて書かれているが、IFRSの提唱するフレームワークの検討なども含めて、もう少し会計基準のあるべき姿に言及して欲しかった。

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